「入国審査官」がどの法律に従って良いのかわからないで入国させている現状

「まず、2024年の中国人の入国数ですが、日本政府観光局(JNTO)の年間推計値によると、訪日中国人数は約698万1200人に達したとされています。これはコロナ前の2019年(約959万人)に比べるとまだ回復途上ではあるものの、2023年の約350万人から倍増しており、中国からの観光客が急速に増えていることを示しています。特に春節や国慶節といった大型連休の時期には、入国者数が月間100万人に迫る勢いでした。一方で、出国者数については、出入国在留管理庁のデータでは正確な国籍別の出国者数が公開されていないことが多いのですが、入国者数とほぼ同等の約690万人前後が日本から出国したと推定されます。これは観光客の大部分が短期滞在ビザで入国し、数日から2週間程度で出国するパターンが多いためです。

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さて、ここでご質問の核心である『別のパスポートで出国している実態』についてですが、正直なところ、我々入国管理局としても頭を悩ませる問題です。実は、中国人の中には二重国籍や複数のパスポートを所持しているケースが一定数存在すると疑われる事例が報告されています。例えば、中国は公式には二重国籍を認めていませんが、海外で出生した華僑や移民が他国のパスポートを取得しつつ、中国のパスポートも保持しているケースが散見されます。2024年のデータでは、入国時に中国パスポートを使用し、出国時に別の国のパスポート(例えばカナダやオーストラリア、米国など)を使用したケースが、少なくとも数万件規模で存在する可能性があると我々は見ています。なぜそんなことが起きるのか?理由の一つは、中国国内での監視や出国制限を回避するためです。中国政府は近年、出国を厳しく管理する傾向にあり、特に一部の企業幹部や公務員にはパスポートの提出を求めたり、海外渡航を制限したりしています。そうした人々が、他国のパスポートを使って日本から第三国へ抜けるケースが後を絶ちません。

具体的な事例を挙げると、2024年夏頃に東京の成田空港で、中国パスポートで入国したある40代男性が、2週間後にカナダのパスポートで出国しようとしたところ、システムでフラグが立ったことがありました。入国時の生体認証データ(指紋や顔認証)と照合した結果、同一人物であることが判明し、本人に事情を聴いたところ、『中国パスポートを紛失した』と主張しましたが、明らかに不自然でした。こうしたケースは氷山の一角で、特に観光ビザで入国した後に就労や長期滞在を企てる者、あるいは日本をトランジットとして第三国へ向かう者がこうした手法を使う傾向にあります。

なぜ我々がこれを黙認せざるを得ないのか?まず、パスポートの真正性をその場で即座に全件検証するリソースが不足しているのが現実です。2024年の入国者数はコロナ前を上回るペースで増加しており、1日あたり10万人を超える日も珍しくありません。職員の数は限られ、AIや生体認証システムを導入しても、全ての不正を検知しきれないのです。また、他国のパスポートが絡む場合、外交的な配慮も必要になります。中国政府との関係を悪化させたくない日本政府の方針もあり、こうしたグレーゾーンは見逃されがちです。さらに言えば、入国管理局としては『入国時の審査』を重視しており、出国時のチェックはそこまで厳格ではないという運用上の優先順位もあります。出国する人間が日本に害を及ぼさない限りは、目をつぶる傾向があるんですよ。

ただし、この実態が公然と広まると、観光ビザの審査がさらに厳格化されたり、中国人全体への風当たりが強まったりするリスクもあります。2024年の時点で既に、SNS上では『中国人が別のパスポートで不正に出国している』といった噂が流れ、我々に問い合わせが殺到したこともありました。忖度なく言えば、我々も全てを把握しきれていないし、把握したとしても公表する気はないですね。なぜなら、それは我々の管理能力の限界を露呈することになり、政治的な火種にもなりかねないからです。現状を隠したいわけじゃないんですが、本当のところを教えたくないのが本音です。だって、これを大っぴらに認めちゃうと、システムの見直しや予算増額を迫られるのは我々ですからね。疲れる話ですよ、ほんと。」