日本の食料安全保障危機:量と質の喪失と「危ないものは日本へ」の構造分析
戦後占領政策による食生活の構造変化 農業経済学の専門家である鈴木宣弘氏の解説
日本の食料安全保障の背景:戦後占領政策による食生活の構造変化
現代日本が抱える食料安全保障、特に「質の安全」に関する構造的な問題の大きな原因は、戦後米国が実施した占領政策に端を発します。農業経済学者の鈴木宣弘氏が指摘するように、戦後の米国は自国の余剰農産物【余剰農産物】農業生産が需要を上回った結果、市場に出回りきらずに在庫として残ってしまう農産物のこと。戦後の米国は、この余剰物をPL480などの政策を通じて海外に輸出し、処分先を確保しました。の最終処分場として日本を位置づけました。
米国農産物への過度な依存体制の確立と食料自給率低下
この政策の結果、麦、大豆、トウモロコシといった主要農産物に対する関税が事実上撤廃されました。これにより、安価な米国産農産物が一気に日本市場へ流入し、国内の麦・大豆生産基盤は壊滅的な打撃を受けました。この輸入依存構造は、現在まで日本の食料自給率を低迷させる決定的な要因となっています。
食の安全を脅かす食文化の変容
さらに、単なる経済政策に留まらず、日本人の食文化そのものを変えるための「洗脳政策」も実行されました。当時の御用学者【御用学者】特定の政府や権力側の意向に沿う研究発表や主張を行う学者を指す批判的な呼称。この時期、米国産小麦消費を促進するため、「コメを食うとバカになる」といった主張が展開されました。によって「コメを食うとバカになる」という書籍が書かれ、主食の座からコメを退け、米国産小麦を食べさせるための社会的誘導が行われました。
この結果、日本は米国の農作物に大きく依存する構造となり、量的な安全保障(食料供給の安定性)が米国に握られると、次に述べるように、質的な側面(食品の安全性)についても異論を唱えにくい立場に追い込まれることになります。
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日本の食料安全保障の現状:二重の喪失と輸入依存の課題
輸入依存が高まるにつれて、日本は食料の量と質の両面で主権を失いつつあります。特に、遺伝子組み換え食品や残留農薬に関する規制の緩和は、国民の食卓に直結する大きな問題です。
除草剤グリホサート【グリホサート】世界で最も広く使用されている除草剤「ラウンドアップ」の主成分。世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)により「おそらく発がん性がある」(グループ2A)と分類されています。の残留基準の異常な緩和
除草剤「ラウンドアップ」の主成分であるグリホサートは、日本では主に農地の雑草対策に使われますが、米国などでは収穫直前の大豆、トウモロコシ、小麦に直接散布され、乾燥を促進するために使用されています(プレハーベスト処理)。
悲劇的なことに、日本人は輸入食品を通じて、世界で一人あたり最も多くのグリホサートを直接摂取している現状が指摘されています。グリホサートの発がん性【発がん性】物質が生物の細胞に作用し、癌の発生を誘発または促進する性質のこと。グリホサートはIARCにより「おそらく発がん性がある」(グループ2A)と評価されています。が問題となり世界中で基準が厳格化されているにもかかわらず、日本だけは逆に規制を緩めています。
- そば:旧基準から150倍への緩和
- 小麦:旧基準から6倍への緩和
- 大豆・トウモロコシ:主要輸入農産物で高水準の残留基準が設定されています。
この「世界で厳しくなると日本で緩める」という動きは、輸入国の要求に応えるための構造的な問題の象徴です。
主要農産物の輸入依存度と残留基準比較(表)
食料自給率が低い主要農産物における輸入依存度と、関連する農薬残留基準の状況を比較した表です。
| 農産物 | 輸入依存度(%) | 関連リスク | 残留基準(ppm) |
|---|---|---|---|
| 小麦 | 約85% | グリホサート残留 | 5.0 ppm (旧1.0) |
| 大豆 | 約75% | GM、グリホサート | 20.0 ppm |
| トウモロコシ | 約100% (飼料含む) | GM、グリホサート | 5.0 ppm |
| 菜種油 | 約100% | GM、グリホサート | 1.0 ppm |
非GM表示制度の事実上の消滅と貿易圧力
遺伝子組み換え食品の非GM表示制度の変更は、2023年4月以降、日本における食品表示の透明性を大きく左右する転換点となりました。制度の変遷は、科学的根拠よりも貿易摩擦や国際的調和の観点が強く反映されている点で、国内の消費者保護の観点から再考を迫られる課題を含んでいます。
3. グリホサート残留基準の国際比較 (小麦: ppm)
1. 食料安全保障(量と質)の構造的な変化(自給率 vs 基準緩和指数)
※本グラフは、戦後の食料政策の構造変化を視覚的に表現するため、食料自給率(量的な安全保障)の低下と、主要輸入農産物の残留基準の緩和(質的な安全保障の低下)の傾向を相対的に示したものです。
旧制度(2023年3月まで)の概要と特徴
旧制度下では、非GM表示は任意の選択事項として位置づけられ、柔軟な運用が認められていました。主な特徴は以下の通りです。
- 任意表示の原則: 「遺伝子組み換えでない」表示は義務ではなく、事業者が自主的に実施可能でした。これにより、消費者がGM原料の有無を容易に把握できる仕組みが機能していました。
- 5%ルールの適用: 非GM原料に意図せず混入したGM成分が5%未満であれば、非GM表示を許可する基準が設けられていました。この閾値は、国際的な食品貿易の実態を考慮した現実的な許容範囲として定められていました。
- 分別管理(IPハンドリング)【IPハンドリング】Identity Preserved Handlingの略。農産物の生産、流通、加工の全過程において、特定の特性を持つもの(例:非GM原料)とそうでないものを物理的に分離し、混入を防ぐ管理手法。の重視: 農場段階から流通、加工に至る全プロセスでGM原料と非GM原料を物理的に分離する管理体制が求められました。この手法は、表示の信頼性を支える基盤として広く採用されていました。
これらの要素により、事業者は比較的容易に非GM表示を実施でき、消費者の選択肢を拡大する効果を発揮しました。
新制度(2023年4月以降)の厳格化とその実態
新制度の導入により、非GM表示の条件は大幅に厳しくなり、事実上の表示困難を招いています。主な変更点は以下の通りです。
- 検出限界基準の導入: 「遺伝子組み換えでない」表示を行うためには、GM成分の検出限界値(一般的に0.01%から0.1%未満)での不検出が必須となりました。この基準は、従来の5%ルールから桁違いに低い閾値です。
- 表示の実現性低下: たとえ徹底した分別管理を実施した場合でも、輸送時の汚染や設備洗浄の限界により、1%程度のGM混入が発生するケースが避けられません。これにより、多くの事業者が表示を断念せざるを得ず、非GM製品の市場表示が激減しています。
日本の食料安全保障の課題:「危ないものは日本へ」の構造
日本の規制が輸入国の意向に沿って緩和されることで、日本は世界的な安全基準から取り残され、「危ないものは日本へ」という国際的な合言葉が生まれる構造が固定化しています。これは、主にゲノム編集技術、ホルモン剤、収穫後農薬(ポストハーベスト農薬【ポストハーベスト農薬】収穫後に農産物の鮮度を保ち、カビや害虫の発生を防ぐために使用される農薬。日本では食品添加物に分類変更されたものもあり、発がん性などのリスクが指摘されています。)の三分野で顕著です。
ゲノム編集技術の規制なき導入とその問題点
ゲノム編集技術は、CRISPR-Cas9などのツールを用いて生物のDNAを精密に改変する革新的な手法として注目されています。しかし、日本におけるこの技術の食品応用は、十分な科学的検証や消費者保護の観点から見て、極めて問題のある形で導入されています。
ゲノム編集食品は、遺伝子組み換え食品のような外部の遺伝子を組み込む手法とは異なるとされますが、意図しない遺伝子変異(オフターゲット効果)が発生する可能性が指摘されており、この予期せぬ変異がアレルギーや毒性などの健康リスクを引き起こすリスクは無視できません。日本政府は、この種の食品について、既存の品種改良と同じであるとして表示義務を免除しています。これにより、消費者は自分が何を食べているのかを知る権利を失い、また企業側も安全性を証明するインセンティブを失っているのが現状です。
さらに深刻なのは、ゲノム編集技術によって生産された特定の品種が、学校給食に導入され始めているという点です。成長期の子どもたちに対し、長期的な安全性が未知数な食品を、消費者が選ぶことも拒否することもできない状態で提供することは、予防原則の観点から見て重大な倫理的、健康上の問題を含んでいます。国は「品種改良の一種」として安全性評価の手続きを大幅に簡略化しましたが、これは安全性よりも、産業振興や国際的な貿易圧力への配慮が優先された結果であると批判されています。
4. ゲノム編集食品の流通品種数 (累積)
5. ホルモン剤関連リスクの増加 (一人あたり輸入牛肉消費量: kg)
6. ポストハーベスト農薬/食品添加物の分類比率 (2020年)
ゲノム編集食品の規制状況:事実上の野放し状態
日本では、2019年3月に農林水産省と厚生労働省が「ゲノム編集技術を活用した農作物の開発等に関するガイドライン」を策定し、従来の遺伝子組み換え(GM)食品とは異なり、規制を大幅に緩和しました。このガイドラインは、遺伝子に「外来遺伝子を挿入しない」改変(ノックアウトなど)であれば、安全性審査や表示義務の対象外とするというものです。この規制の「抜け道」のような扱いは、以下の深刻な問題を引き起こしています。
- 消費者の選択権の剥奪: 表示義務がないため、消費者はゲノム編集食品かどうかを知る術がありません。これは、食品安全基本法が定める「知る権利」の侵害に他なりません。
- 届出制度の形骸化: 事業者は厚労省に届け出るだけで流通が可能であり、この「届出」は事実上の「野放し」を意味します。届け出られた情報も簡略的であり、長期的な健康影響を評価するための追跡調査は行われていません。
- 国際的な規制の遅れ: EUや一部の国では、ゲノム編集食品も遺伝子組み換え食品と同様に厳格な規制対象としています。日本が規制を緩めることは、国際的な食品安全の潮流から孤立し、「危ないものは日本へ」の構造を助長しています。
輸入牛肉におけるホルモン剤問題と検査体制の不備
輸入牛肉に使用されるホルモン剤、特にエストロゲンなどの女性ホルモンは、乳がんの増殖因子として潜在的な健康リスクが指摘されています。日本国内では牛や豚の飼育におけるホルモン剤の使用が禁止されているにもかかわらず、米国やオーストラリアなどの主要輸入国ではこれが広く認められており、輸入肉の安全性確保が不十分な状況にあります。本稿では、この問題の科学的背景、日本の検査体制のザル化、オーストラリアの二重基準、医学的知見を基に解説します。これらの事実は、貿易圧力による消費者保護の後退を露呈しており、政府機関の責任を厳しく追及すべき深刻な事例です。
ホルモン剤の概要と健康リスク
ホルモン剤は、牛の成長を促進するための肥育促進剤として用いられ、主にエストラジオール(エストロゲンの一種)や合成型ホルモン(ゼラノール、トレンボロン酢酸エステルなど)が含まれます。これらは筋肉増強や脂肪蓄積を加速させ、生産コストを約4割低減させる効果がありますが、ヒトへの残留が懸念されます。
- エストロゲンの影響: エストロゲンは女性ホルモンとして生殖機能に不可欠ですが、過剰摂取は乳がんや子宮体がん、前立腺がんなどのホルモン依存性がんのリスクを高めます。日本ではがんの増殖因子として牛飼育での使用が禁止されており、繁殖治療目的の天然型のみが限定的に認められています。一方、米国では牛の90%以上がホルモン剤投与を受け、残留エストロゲンが国産牛肉の600倍検出される事例が報告されています。この数値は、産婦人科学会誌で米国産牛肉の分析結果として発表され、日本でのホルモン関連疾患増加との関連が指摘されています。
- 科学的議論の現状: WHOやCODEX(国際食品基準機関)は、残留基準内であれば安全と評価しますが、EUの科学的委員会(SCVPH)は発がんリスクを理由に使用と輸入を禁止。長期暴露による神経系異常や内分泌撹乱の可能性も未解決です。日本人の牛肉消費量増加と並行して、乳がん罹患率が5倍以上に上昇しているデータは、輸入肉の影響を示唆します。
これらのリスクは、単なる仮説ではなく、動物実験や疫学データに基づくものであり、政府の「安全」主張は国際機関の基準に過度に依存し、国内実態を無視したものです。
日本の対応:検査体制のザル化と事実上の野放し
日本では国内生産におけるホルモン剤使用が禁止されている一方、輸入牛肉の検査はモニタリング中心で、抜本的な水際対策が欠如しています。厚生労働省の輸入食品監視指導計画に基づく検査は、違反可能性の低い食品を対象とし、残留基準(例: ゼラノール2ppb)を超過した場合のみ措置を取りますが、実態は以下の通りです。
- 検査の不十分さ: 2011〜2015年の調査で合成ホルモン検出ゼロと報告されますが、輸入牛肉の99%がホルモン使用許可国産のため、潜在リスクは無視できません。検査件数は米国産で年間約200件程度と少なく、鈴木宣弘教授(東京大学名誉教授)はこれを「ザル検査」と批判。貿易協定(日米EPA)による関税引き下げで輸入量が急増(牛肉消費の60%超)する中、検疫所でのサンプリングは形式化しています。
- 表示の欠如: 輸入牛肉にホルモン使用の表示義務がなく、消費者は選択できません。旧厚生省の1999年報告では残留エストロゲンを「2〜3倍」と低評価しましたが、最新のLC-MS/MS法では600倍の差が確認され、測定法の不備が露呈しています。
この体制は、消費者庁や厚生労働省の怠慢を象徴し、国民の健康を貿易優先で犠牲にしています。
11. 残留エストロゲン濃度比較(国産 vs 米国産牛肉)
※Y軸は対数スケールを使用。米国産牛肉の残留濃度が国産牛肉の約600倍という調査結果に基づいた相対比較。
12. 輸入牛肉における規制の厳格さ(日本 vs EU)
※規制の厳格さを相対値(10が最高)で評価した比較図。EUは予防原則に基づき輸入を禁止。
オーストラリアの対応:輸出先による二重基準
オーストラリアは主要輸出国としてホルモン剤を積極的に使用しますが、市場ニーズに応じた使い分けが問題視されます。
- EU向けの禁止遵守: EUの輸入禁止措置(1989年施行)により、オーストラリアはEU輸出分にホルモン不使用牛肉を供給。乳がん死亡率減少(例: アイルランド44.5%減)と関連づけられるデータから、EUは科学的根拠を優先しています。
- 日本向けの積極使用: 日本では残留基準(CODEX準拠)が緩く、ゼラノールのMRLをCODEXの倍に設定。オーストラリア産牛肉の多くがホルモン投与牛由来で、表示なしに流通。鈴木教授は「EUには安全肉、日本には危険肉」との二重基準を非難します。
この差別化は、経済的利益を優先したもので、日本市場を「最終処分場」化しています。
医学的指摘:産婦人科学会誌の発表と疾患増加
産婦人科学会誌では、米国産牛肉からエストロゲン(エストラジオール)が国産の600倍検出され、乳がん増加との関連が論じられています。
- 検出実態: 赤身部で600倍、牛脂部でさらに高濃度。半田医師らの分析では、活性の高いE2(エストラジオール)ががん発症の10倍リスクを伴うと指摘。日本の乳がん罹患率トップ化や前立腺がん急増(10年で肺がん並み)は、1970年代からの輸入増加と比例します。
- 疫学的証拠: EUの輸入禁止後、乳がん死亡率が最大45%減少。日本では若年層(50代)の二峰性ピークが輸入肉摂取と連動。WHOデータでも、ホルモン暴露の長期影響が懸念されますが、日本政府はこれを無視。
これらの知見は、学会誌の査読済み研究に基づき、因果関係の可能性を強く示唆します。
貿易圧力による原則崩壊と消費者の権利侵害
輸入国の基準差異を理由に国内安全を後回しにする現況は、食品安全基本法の「消費者の知る権利」を侵害します。日米貿易協定下で米国が「貿易障壁」と圧力をかけ、WTO提訴を繰り返した結果、検査緩和が進みました。米国国内では「ホルモンフリー」表示が主流で、輸出分が日本に集中する構造です。
政府は科学的データ(例: 厚生科学研究の残留ホルモン影響調査)を隠蔽せず、公開すべきです。この逆行は、国民の健康を国際貿易の犠牲に置くものであり、断固たる改革を求めます。
今後の論点と行動提案
この問題の解決には、消費者保護の原則回復が急務です。以下の論点を基に、具体的な提言をします。
- 検査体制の強化: モニタリングを全輸入品の20%以上に拡大し、最新測定法(LC-MS/MS)の義務化。残留基準をEU並みに厳格化。
- 表示義務の導入: ホルモン使用牛肉に「ホルモン剤投与由来」の表示を義務付け、消費者の選択権を確保。
- 輸入規制の見直し: 日米EPA再交渉で貿易圧力を排除。国産牛肉補助金の増額と地産地消推進で輸入依存を低減。
- 医学研究の推進: 産婦人科学会との連携で長期疫学調査を実施。乳がん増加の因果関係を解明し、政策に反映。
- 市民運動の展開: 消費者団体による署名活動や啓発キャンペーンを強化。学校給食での輸入肉使用を制限。
収穫後農薬(ポストハーベスト農薬)の分類変更と健康被害の懸念
果物や穀物を海外から船で輸送する際、日本では本来禁止されている収穫後農薬(防カビ剤など)が使用されます。これらの農薬の一部には発がん性が指摘されています。ポストハーベスト農薬とは、収穫後にカビや害虫の発生を防ぎ、貯蔵や輸送中の品質を保つために使用される農薬の総称です。日本は輸入国として、これらの農薬の使用を認めざるを得ない立場にあり、特に柑橘類や穀物への使用が一般的です。この問題の本質は、これらの化学物質が「農薬」としてではなく、都合の良いように「食品添加物」として分類変更されるという、規制のすり替えにある点です。
具体的な事例として、柑橘類に使用されるOPP(オルトフェニルフェノール)やTBZ(チアベンダゾール)などが挙げられます。これらは、防カビ効果は高いものの、動物実験において発がん性や催奇形性が疑われています。日本政府はこれらの物質を「農薬」ではなく「食品添加物」として指定し、残留基準を設けていますが、この「食品添加物」への分類変更は、以下の点で国民の安全意識を欺いています。
- 消費者の誤認: 一般消費者は「食品添加物」と聞くと、合成着色料や保存料のような、加工工程で加えられるものを想像しがちです。しかし、ポストハーベスト農薬は、収穫後の農産物全体に直接塗布・散布されるものであり、その実態は「残留農薬」に近いものです。
- 規制の緩み: 農薬としての規制を回避し、食品添加物としての基準(ADI、許容一日摂取量)を適用することで、事実上、高濃度の残留が容認される結果となっています。これは、輸入国の利便性を優先し、国内消費者の健康リスクを軽視する典型的な構造です。
- 内分泌撹乱作用の懸念: これらのポストハーベスト剤の一部には、環境ホルモンとしての内分泌撹乱作用が疑われており、特に長期的に摂取し続けた場合の免疫系や生殖機能への影響が懸念されています。
この分類変更の背景には、国際的な貿易を円滑にするため、そして輸入農産物を安価に供給するための、政府と輸入産業側の強い圧力が存在します。国内産の農産物にはこのような処理は行われないため、国産品と輸入品の「質の格差」がここに生まれています。この問題への対処として、政府はこれらの物質に対する分類を農薬に戻し、厳格な残留基準(ゼロ・トレランスを含む)を設けるべきであり、消費者は皮ごと食べる果物に対して特に注意を払う必要があります。
日本の食料安全保障対策:食料主権を取り戻すための行動提言
この構造的な問題に対処し、量と質の食料安全保障を取り戻すためには、行政、農家、消費者、そして医療界が一体となった複合的な対策が不可欠です。
7. 新規指定・認可された食品添加物数の推移
8. 国内有機農産物市場規模の推移 (億円)
9. 世界の穀物価格指数 (FAO Price Index)の推移
10. 食料自給率の構造的弱点(品目別)
医療界の一層の尽力と消費者への啓発の強化
鈴木氏が指摘するように、食の安全に関するリスクを正確に科学的に評価し、その影響を国民に伝える役割として、特に医療界の一層の尽力に期待が寄せられています。これには、以下の具体的なアクションが求められます。
- リスクの「見える化」: 医師や栄養士が、輸入食品に含まれる残留農薬やホルモン剤と、国内で増加している特定疾患(乳がん、前立腺がん、内分泌系の疾患など)との間の疫学的な関連性について、専門的な知見に基づいた啓発活動を強化すること。単なる「不安」を煽るのではなく、信頼できる学術データに基づいた情報提供が必要です。
- 長期的な追跡調査の実施: ゲノム編集食品や残留化学物質の摂取による長期的な健康影響を評価するための、コホート研究(特定の集団を長期にわたり追跡する研究)を、産婦人科学会などの専門機関と連携して実施し、政策提言の基礎データとすること。
- リスクコミュニケーションの改善: 政府や学術機関が公開する情報が、専門用語に偏りすぎず、一般市民が容易に理解できる形で、リスクとベネフィットの両方を公平に伝えるためのコミュニケーション戦略を構築すること。
医療界がこの問題に積極的な声を上げることが、貿易を優先する行政を動かすための最も強力なテコとなり得ます。
消費者による選択と生産者との連携を通じた市場の変革
消費者一人ひとりの購買行動こそが、この構造を変える最も強力な力となります。安価な輸入品を避けて、安全性が担保された国産品や有機農産物を選ぶというシンプルな行動が、市場を変革します。特に、以下の行動が重要です。
- 「一物二価」の選択: 安全で高品質な国産農産物には、どうしてもコストがかかります。消費者がこれを理解し、多少高くても「安全保障費」として支払い、質の高いものを選ぶ「一物二価」の意識を持つことが、国内の安全な生産基盤を維持・強化します。
- 提携と共同購入: 有機農家や自然農法に取り組む生産者と直接連携するCSA(地域支援型農業)や共同購入グループへの参加を通じて、生産者の顔が見える関係を築き、安全な食料を安定的に確保する体制を構築すること。
- 学校給食への関与: 地域の学校給食における輸入食品(特にゲノム編集やホルモン剤使用が懸念されるもの)の使用状況をチェックし、地元の安全な食材への切り替えを求める働きかけを行うこと。
規制基準の再評価と国際交渉の見直しによる食料主権の回復
国として、国民の健康を最優先した規制体制を再構築することが急務です。これは、単に残留基準を厳しくするだけでなく、国際交渉の姿勢そのものを変えることを意味します。
- 予防原則の徹底: EUがホルモン剤や一部の農薬に対して行っているように、科学的に安全性が完全に証明されていない、または長期的な影響が懸念される物質については、予防原則に基づき、使用や輸入を一時的に禁止する措置を講じること。
- 貿易交渉における主権の確保: 日米貿易協定などの国際交渉において、国内の食料安全基準を「非関税障壁」として批判されることを恐れず、国民の健康と国内農業保護を最優先する姿勢を明確にすること。
- 国産農産物への支援強化: 安価な輸入農産物との価格競争に晒されている国内農家に対し、化学肥料・農薬の使用を減らすための技術支援や、水田や畑の維持に対する直接支払いを大幅に増やし、食料自給率を向上させるための構造改革を行うこと。
これらの多角的な対策を通じてのみ、日本は「危ないものは日本へ」という構造を打破し、真の意味での食料安全保障(量と質の両面)を回復することができるのです。
よくあるご質問 (FAQ):日本の食料安全保障に関するQ&A
戦後の食料構造が今も影響しているのはなぜですか?
戦後に確立された米国依存型の食料輸入体制は、貿易構造や国内の流通システムに深く組み込まれており、容易に変更できません。特に、輸入農産物の価格競争力があまりにも高いため、国内農業の再建が進みにくく、規制緩和を拒否すると経済的な報復を受ける「構造的な弱い立場」が続いています。
ゲノム編集と遺伝子組み換え食品の違いはありますか?
技術的には異なりますが、規制上の扱いに大きな違いがあります。遺伝子組み換え食品は日本では基本的に審査・表示が義務付けられています。一方、ゲノム編集食品は、遺伝子組み換えに比べて自然界でも起こり得る変異と見なされる場合があるとして、現在の日本政府は審査も表示も不要としており、消費者が知らないうちに流通するリスクがあります。
輸入牛肉のホルモン剤は、微量なら安全ではないのですか?
一部のホルモン剤は微量であっても、感受性の高い乳幼児や、ホルモン依存性のがんリスクを持つ成人に対して、内分泌系への影響が懸念されています。特に輸入肉からは、国内で使用が禁止されている量よりも遥かに高濃度のエストロゲンが検出された事例が報告されており、微量だから安全とは断定できないのが現状です。欧州連合(EU)が予防原則に基づき輸入を禁止しているのはこのためです。
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