【武田邦彦教授の解説】リサイクルは偽善か?データとエントロピーから見る資源循環の真実
リサイクル制度が拡大した背景:1990年以降の社会的要因と利権の発生
1990年前後は世界的な大きな転換期であり、日本経済の停滞と重なり、社会の関心が「前向き」な成長分野から「後ろ向き」な資源回収へと向かいました。
リサイクル運動が拡大した社会的背景
- 高度成長の終焉: タンスや家電製品が揃い、「買うものがない」状態になった。
- 資源枯渇論の台頭:: 「資源が枯渇する」「リサイクルが必要である」という言説が広まった。
- 環境問題の顕在化:: 環境ホルモンやダイオキシンなどの問題が同時に湧き上がり、社会的な不安が増大。
- 利権の発生:: これらを背景に、「儲かる」と見た業界と官庁が利権を形成し、公的な嘘が始まる土壌ができた。
科学的原理:エントロピーから見るリサイクルの非効率性
人間活動は自身の「秩序(エントロピーの低下)」を維持するために、天然資源(エントロピーの低い物質)を必要とします。一度使われてエントロピーが高くなった(乱雑になった)ゴミは、原理的に資源化が困難です。
エントロピー(乱雑さ)の原理が示すリサイクルの限界
- 分散のエントロピー: 資源が分散し、集め直す過程で膨大なエネルギーが必要となる。
- 劣化のエントロピー: 異物(チューインガム、タバコの灰など)が混入し、洗浄・除去しても完全に取り除けない。
- 混合のエントロピー:: 様々な種類、色、素材が混ざり、純粋な物質に戻すことが困難(紙の脱墨、アルミ缶の合金分離など)。
- エネルギー収支の矛盾:: 効率的に行っても、新品を作るよりもリサイクルの方が多くの石油(エネルギー)を消費する結果となる。
廃プラスチックが新品に戻れない本質的な理由と限界
武田教授の指摘に基づき、廃プラスチックが「新品同様」の品質に戻れない根本的な理由を、科学的・経済的な側面から解説します。
劣化して、もう元には戻らない ❌
プラスチックは、熱を加えたり紫外線にさらされたりすることで、素材の分子の繋がり(鎖)が切れてボロボロになります。再生時にもう一度溶かして固め直すと、このボロボロのせいで**強度が落ちたり、にごったり**してしまいます。
結論:新品のプラスチックが持っている「完璧な性能」は、物理的に二度と再現できません。
汚れや不純物を完全に取り除けない 🧼
使用済みのプラスチックには、ラベルのインク、金属、色々な種類のプラスチックなどが混ざっています。これらを完全に分けたり、洗い流したりするのは技術的に不可能です。少しでも不純物が残ると**品質がバラついてしまい**、特に食品容器や医療用品のような高い安全性が求められる用途には使えません。
結論:少しでも不純物が残ると品質がバラついてしまい、特に食品容器や医療用品のような高い安全性が求められる用途には使えません。
コストが高すぎて割に合わない 💸
プラスチックを再生するには、洗浄、選別、再加工にとてもお金がかかる設備が必要です。現状、原油から作る新品のプラスチックの方が、安く手に入ることがよくあります。再生材は「高価なのに品質が新品より劣る」という欠点があり、市場であまり使われません。
結論:再生材は「高価なのに品質が新品より劣る」という欠点があり、市場であまり使われません。
リサイクル制度化の裏側:利権構造と構造的欠陥
1990年代のリサイクル制度化は、「環境保護」を名目としながらも、実際には官庁の予算獲得、天下り先の確保、および業界の利益維持のための制度設計という側面が強くありました。
制度化の名の下に進行した利権の温床
- 官庁主導の制度設計:: 環境省、厚労省、経産省が主導し、「環境保護」「資源循環」を建前としながら、予算獲得や天下り先確保のための制度設計を行った。
- 業界団体の巻き込み:: 家電、容器包装、建設業界などを巻き込み、「業界の協力」を実態とした利権配分と価格維持のための談合構造が成立した。
- 保険会社・金融機関の関与:: 廃棄物処理や再資源化に保険・金融が絡み、「リスク管理」という名目で金融商品化による収益確保と制度依存の強化が進んだ。
- 地方自治体の役割:: 実務(分別・収集・処理)を担う自治体は、「地域主導」の建前とは裏腹に、国の制度に従属し、財政負担と住民負担の増加を強いられた。
リサイクル制度の構造的欠陥と社会的欺瞞
- 再資源化率の虚偽表示:: 実際には焼却・埋立されるものも「リサイクル」と表示され、国民の誤認と制度への過信を生んだ。
- 分別の過剰強制:: 実効性の低い分別が住民に強制され、精神的・時間的負担が増加した。
- 天下り先の確保:: リサイクル関連団体・財団法人への官僚の再就職が続き、制度の硬直化と非効率化を招いた。
- メディアによる美化:: 環境報道が制度の問題を隠蔽し、批判的思考の抑制と制度への盲信を助長した。
リサイクルの欺瞞:回収と焼却の「公的な嘘」と法制度の構造
リサイクル運動の熱が高まる中、現実にリサイクルが困難であると判明した後、法制度や運用で「回収=リサイクル」とする公的な欺瞞が始まりました。
法律と業界による「ごまかし」の構造
- 回収率=リサイクル率:: 現行のリサイクル法は、実際に再生利用されなくても「回収したもの」をリサイクルとして計上可能にしている(サーマルリサイクル含む)。
- 家電リサイクル法(1998年):: 「再資源化率90%以上」とされるが、実際には部品単位での再利用が多く、資源としての再投入は限定的である。
- 容器包装リサイクル法(1995年):: 自治体が分別・収集を担う一方、処理費用は住民負担。業界は処理費用を「委託料」として支払うが、その費用は製品価格に転嫁されている。
- 廃棄物処理法改正(1991年):: 「排出抑制」を掲げながらも、実際には処理業者の利益構造を守るための制度的枠組みが強化された。
- 毒物の蓄積:: リサイクル品には水銀やカドミウムなどの毒物が混入しているため、循環利用を続けると製品中の毒物許容量を簡単に超えてしまう。焼却による除去メカニズムが失われた。
- 国民への責任転嫁:: ゴミの発生は社会全体の活動によるものだが、分別や収集の労力は全て無償で「消費者(特に主婦)」に転嫁されている。
データが語るリサイクルの真実:12のグラフ分析
以下は、リサイクル制度の構造的欠陥、非効率性、および公的欺瞞を裏付ける、武田教授の指摘に基づくデータシミュレーションです。(数値は説明のために作成されたものです。)
リサイクル偽善に関するよくある質問 (FAQ)
はい、多くの場合、非効率です。科学的な原理(エントロピー)から見ると、一度乱雑になり分散した物質(ゴミ)を、純粋な資源に戻すためには、収集、分別、洗浄、再加工の過程で膨大なエネルギー(主に石油)が必要です。特に紙や一部のプラスチックのリサイクルでは、新品を製造するよりも多くのエネルギーを消費する結果となっています(G2参照)。
公的なリサイクル率には、熱回収(サーマルリサイクル)や、資材として再利用するものの純度が低い状態のものも「再資源化」として計上されるためです。実際に新しい製品の原料として使える「純粋なマテリアルリサイクル率」は公表値よりも遥かに低く、両者には大きな乖離があります(G6参照)。これは制度上のマジックであり、国民の誤認を生んでいます。
制度化は、環境保護を建前に、官庁が予算と天下り先(リサイクル関連団体など)を確保し、業界団体が処理コストを製品価格に転嫁することで利益構造を維持する枠組みとなっています。特に、リサイクル関連の公益法人への官僚の天下り人数の増加(G4参照)は、制度が硬直化し、効率よりも既存の利益構造が優先されていることを示しています。
武田教授の提言は、人間が不可能な「エントロピーの低下」を試みるのではなく、自然の摂理に任せることです。具体的には、非効率な分別や再利用を止め、廃棄物を高効率な焼却炉で適切に処理し、その際に発生するエネルギーやCO2を人類や自然界に役立てる(CO2を植物育成に活用するなど)という構造です。これにより、エネルギー収支を改善し、有害物質の蓄積リスクを避けることができます。
資源全体の構造:国民が見えない資源利用の全体像
多くの国民が認識しているのは台所のゴミ箱にある「燃えるゴミ」など、ごく一部の一般廃棄物であり、産業廃棄物や環境中に排出される資源の全体像が認識されていません。
年間資源利用(約20億トン)の内訳
- 工業原料: 資源の約半分が工業原料として利用される。
- 製品化:: 工業原料のさらに半分(全体の1/4)が製品となる。
- 回収可能量:: 製品のうち、回収が可能な使用済み廃棄物は全体の約1/10程度。
- 行方不明の資源:: 残りの大部分(約14億トン)はCO2や水、あるいはその他の廃棄物として、土壌や大気中に分散・排出される。
※リサイクルは、このわずかな「回収可能量」を扱う活動であり、全体の資源の流れから見れば「微々たるもの」に過ぎません。(G9, G12参照)
真の資源循環構造への提言と未来
武田教授はリサイクル自体に反対ではなく、人間の知恵で資源循環の構造を再構築することが重要であると説きます。現在の「偽善的なリサイクル」を捨て、自然の摂理に則ったシステムが必要です。
人間と自然の資源循環
- 廃棄物処理:: 廃棄物はエントロピー的に焼却(役)するしかない。
- CO2の積極的活用: 焼却で排出されるCO2を積極的に活用し、寒冷化防止や動植物の育成に役立てる。
- 自然の役割:: 植物や地質学的なサイクル(太陽のエネルギーや地熱)を通じて、最終的にCO2や天然資源(石油・石炭)に戻し、エントロピーの低い状態に集約させる。
- 真の目的:: 人間ができない「エントロピーを低下させる集約」を自然に任せ、人間はその流れを最大限に活用できる構造を作ることが大切である。
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